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2013.12/16 [Mon]
黒夢 1
改めまして今日は(^O^)/
やっぱり今月は忙しいっす。
流石…師も走る師走…
こちらはSNSにて足跡10000歩目を踏んで下さったH様からのリクエストです♪
結構陛下が黒くなるお話ですので、苦手な方は戻って下さいませ~(@^^)/~~~
ではさっそく↓
―――――――――――――――――――――
【原作設定】【捏造】
それはある日の昼下がり。
政務室でいつものように仕事をしていると、李順から突然こう言われた。
「―――陛下。もうすぐで……終わります。」
「もうか?…まだまだこの書簡の山は消えそうには見えないのだが…」
黎翔は李順の方を見、次いで自分の机の上にある書簡の山を見る。
『もう終わる』…何がだ?
あと二刻経とうとも、終わる気がしない。
早く終わらせて、夕鈴の元へと行きたい。
黎翔は一旦止めていた筆を動かす手を、再び動かそうとした。
「いえ…政務の事ではありません…―――――――夕鈴殿の事です。」
「…夕鈴?」
そこでピタリと動きが止まる。
何故ここで彼女の事が出てくるのか。
…いや、待て。
先ほど李順は何と言った?
『もうすぐ終わる』?
何がだ……と思いたいが、頭の回転の速い黎翔にはすぐにその答えに行きついた。
彼女の事で、終わると言えば一つしかない。
『臨時花嫁』の事だろう。
―――…借金が終わるのか?
もう?
早すぎる。
私はまだ彼女と一緒に居たい。
黎翔は筆を置き、李順に向き直る。
「李順…――――借金が終わったからと、すぐに彼女を辞めさせるのか?」
「元々、一月の契約期間でしたからね…。彼女は少々長く居過ぎました。…ここが潮時でしょう。」
「…」
確かにそうだった。
最初は、次々と舞い込んでくる縁談話を断るための、仮初の妃だった。
最終的には反対したが、始めは囮にするつもりもあった。
しかし―――…
彼女の人柄に触れるにつれ、それは虚飾だけではなくなった。
私自身も、彼女と居て楽しいと思えるようになった。
彼女の傍に居たいと思うようになった。
逃がしたくないとも。
それは今でも変わらない。
――自分はどうしたいのだろうか。
*************
「……完、済?」
「ええ、そうです。長い間、ご苦労様でした。」
夕鈴は黎翔と李順が同じ会話をした翌日、李順にいつもの四阿に呼び出されていた。
ここに呼び出される時は何か重要な事を聞かされる時なので、内心ドキドキであった。
そして、聞かされた話に、夕鈴はぽかーんとしてしまった。
驚きすぎて暫く意識を飛ばしていたのかもしれない。
李順に呼ばれるまで、話が続いていた事に気が付かなかった。
「…どの。……鈴殿?―――夕鈴殿?」
「――!あ、はいっ!?」
「…聞いてなかったようですね…」
「す、すみませんっ!!!」
「ふぅ…。――いいでしょう、もう一度申し上げます。」
「はいっ!」
びしっと夕鈴は居住まいを正した。
「この件はもう陛下にはお伝えしております。もうすぐで貴女の借金が終わる事を。そして夕鈴殿、貴女は借金完済後、準備が出来次第ここを出て貰う事になります。それで宜しいですね?」
「―――」
正直、頭の中がぐるぐるしていた。
完済?……は喜ばしいわね。
借金なんて庶民の敵!
無い方が良いに決まってる。
―――でもそれは……同時に陛下との別れを意味する。
いや勿論、李順さんとか浩大とか老師とか…他にも色々な人との別れも意味するんだけど。
紅珠とか柳方淵とか水月さんとかとも。
―――寂しい、な。
せっかく知り合えたのに…
―――いえ、元々、知り合うはずは無かったんだわ。
だって私は所詮一庶民の汀 夕鈴。
狼陛下のお妃様の夕鈴は、元々存在しないもの。
全てが元通りになるだけの話だ。
なのに――――何でこんなに胸が痛いの?
その理由は分かってる。
分かってる…――――
でも、もうこの気持ちにもケリをつけなきゃ。
あの人は、手の届かない人。遠い人。
好きになってはいけなかったのに…
だけど、もう終わり。
借金が終わったら、私はここを出ていく。
演技夫婦は、もうおしまいだ。
だから―――――
「はい…――――分かりました。」
夕鈴は、そう答えた。
風が舞う。
それは季節の変わりと共に、夕鈴と黎翔の関係の終わりも示唆していた―――
****************
夕鈴は借金完済後に向けて、下町に返る準備をしていた。
とは言っても、ここに来る時に持って来ていたのは、身に着けていた衣服と髪止めくらいなものだが。
あっさりと準備を終えた夕鈴は、借りている妃衣装や髪飾り、宝飾品などの状態をチェックする。
―――うん。特に綻びもなし。傷も…ついてない。
これなら、李順さんに返す時に、何か言われる事は無いだろう。
……いや。もしかしたら『この宝石…何か曇っている気がしませんか?』くらいは言われるかも。
そう思ったら、髪飾りや宝飾品のほんの微かな曇りが気になって来た。
いつも侍女の方が入念にお手入れをしてくれているが、それでももしかしたら李順さんのチェックには引っ掛かるかも。
――――――良し。今のうちに綺麗にしましょ。
夕鈴は、綺麗な布を持ちだして、借り物の曇り具合をチェックし、擦り始める。
「―――お妃様。陛下のお渡りでございます。」
「は、はいっ!!」
ちょっと動揺してしまったが、身に着いたお妃スマイルでやり過ごす。
そうしていると、陛下が部屋に入って来た。
「―――妃よ。今夜も君に会うのが待ち遠しかった。」
「お帰りなさいませ、陛下。」
仲良し夫婦演技で侍女に見せ付ける。
黎翔は夕鈴を抱き締め、夕鈴はそれに恥らいつつ応える。
すぐに黎翔が侍女に下がるよう指示する。
すると音もなく侍女は退出し、部屋は静寂に包まれた。
「―――夕鈴。あの机の上にあるのは、どうしたの?」
「あ…」
そう言って黎翔が指差したのは、机の上にある髪飾りや宝飾品の類。
いつもそれらの扱いに慎重な夕鈴が、広げて置いてあるのが気になったらしい。
「これは…今のうちにお手入れをしておこうと思いまして。借り物ですし…」
「―――そんなの、侍女に任せればいいんじゃない?」
「いえ、侍女の方はちゃんとしてくれていますよ。ただ―――李順さんに、それが通用するのか分からないので、念には念を…と思いまして。」
いちゃもんをつけられて、小言を言われるのは正直キツイ。
最期くらい、気持ちよく終わりたい。
「―――」
「…?陛下?」
「―――夕鈴は……本当に帰るの?」
「え…」
どうしたんだろう。
何で、陛下はこんな事を言い出すの?
夕鈴は、戸惑う瞳で黎翔を見上げる。
「…別に、臨時花嫁の後任は決まって無いんだし…このまま、君が居ても良いんじゃないかと僕は思うんだけど…」
「それは…」
それは夕鈴も思った。
だけど、李順さんは借金完済後はここを出るよう言っていた。
だから…もう終わり。
終わりなのだ。
例え…どんなにお傍に居たくとも。
夕鈴は気持ちを押し殺して、李順も言っていたような言葉を口にする。
「――――でも、元々私のバイトは1ヶ月の予定でしたよね。それを、私の借金で延ばし延ばしにしてしまいました。言わば私の都合で、雇って貰ってたんです。」
「それは…」
「だから、その借金が終わったら、自動的にバイトも終わりです。―――陛下。長い間、お世話になりました。」
「ゆ――」
「あともう少しですが、精一杯頑張りますので宜しくお願いします。」
「―――っ」
そう言って深くお辞儀をする。
それは、今までの国王とその妃の距離間では無く…王と臣下の距離。
黎翔は下げられた顔を持ち上げようと手を伸ばすものの、その手は宙で止まる。
そして、言葉もなくその手は下げられる。
―――もう、『その時』は近づいていた。
***************
夕鈴は後宮を辞する1週間ほど前から挨拶回りをしていた。
侍女さん達やお世話になった女官の方々、政務室の面々には『一身上の都合で、後宮を去ることになりました』と。
侍女さん達には泣かれてしまった。
女官さん達は、少し残念そう。
政務室の若い官吏の方たちは、深い理由は聞かずに『寂しくなります…』と言われた。
自分が去る事をこんなにも残念に思ってくれる人たちがいるというだけで、何だか申し訳ない気持ちになる。
老師には物凄く喚かれた。
『陛下がさっさと手を出さないからじゃー!いや、今でも遅くは無いっ!掃除娘っ。今から陛下を誘惑して来るのじゃっ!』
とかなんとか。私はいつもの調子で
『私はバイトで、もうすぐここを離れる身ですので。―――老師。もう会えないと思うので、お菓子を焼いてきました。良かったらどうぞ。』
と言って、その場を去った。
あんまり長居をすると、何かが込み上げてきそうだと思ったから。
浩大はその場に居らず、探したり陛下に聞いたりしたものの、結局姿を現さなかった。
「―――俺はしんみりするタイプじゃないんでね~…」
夜、隠密の声が闇に溶ける。
夕鈴が王宮を去る当日。
心配していた借り物の件は、特に注意もされず引き渡したので、その点では夕鈴はほっとした。
最後の最後まで注意されるなんて、さすがに嫌だ。
隠し通路の入口で、陛下と李順さんに見送られる。
「―――本当に、お世話になりました。」
「いえ―――こちらも、随分と助かりました。気をつけてお帰り下さい。」
「はい。李順さん、今まで有難うございました。」
李順に深くお辞儀をする。
お妃教育や宴の時など臨時花嫁をやるに当たって、夕鈴を妃らしくしてくれたのは偏に李順のお陰だ。
その感謝の気持ちも込めて、夕鈴はお礼を言う。
「…夕鈴は、これからどうするの?」
「陛下。―――恐らく、これまでと同じように、バイトをすると思います。」
「そう…―――」
そう言う陛下のお顔が、寂しそうに影を帯びる。
それには気付かなかったふりをし、夕鈴はお辞儀をする。
「改めて―――陛下。大変お世話になりました。…下町に戻っても、私は陛下の味方です。―――お元気で。」
「―――」
頭を上げた夕鈴は、満面とは行かないまでも笑顔を見せる。
最後に見せる顔は、笑顔。
それは、ずっと決めていたこと。
お別れは辛いけれど…―――貴方との思い出は、決して辛いものばかりではなかったから。
だから、夕鈴は笑う。
心の奥にある悲しみをひた隠しながら。
―――これで、夕鈴の『臨時花嫁生活』は終わった。
*************
―――――――――――――――――――――
とりあえずここまで。
そう!
何を隠そう、この話は夕鈴のバイト終了であります!
あら嫌だ(´・ω・`)
李順さんがいちゃもんつけてますわ(´・ω・`)
その辺の姑も真っ青の付け具合(笑)
…って、実際にいちゃもんつけたわけではないですが←
→2へ続く
やっぱり今月は忙しいっす。
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―――――――――――――――――――――
【原作設定】【捏造】
それはある日の昼下がり。
政務室でいつものように仕事をしていると、李順から突然こう言われた。
「―――陛下。もうすぐで……終わります。」
「もうか?…まだまだこの書簡の山は消えそうには見えないのだが…」
黎翔は李順の方を見、次いで自分の机の上にある書簡の山を見る。
『もう終わる』…何がだ?
あと二刻経とうとも、終わる気がしない。
早く終わらせて、夕鈴の元へと行きたい。
黎翔は一旦止めていた筆を動かす手を、再び動かそうとした。
「いえ…政務の事ではありません…―――――――夕鈴殿の事です。」
「…夕鈴?」
そこでピタリと動きが止まる。
何故ここで彼女の事が出てくるのか。
…いや、待て。
先ほど李順は何と言った?
『もうすぐ終わる』?
何がだ……と思いたいが、頭の回転の速い黎翔にはすぐにその答えに行きついた。
彼女の事で、終わると言えば一つしかない。
『臨時花嫁』の事だろう。
―――…借金が終わるのか?
もう?
早すぎる。
私はまだ彼女と一緒に居たい。
黎翔は筆を置き、李順に向き直る。
「李順…――――借金が終わったからと、すぐに彼女を辞めさせるのか?」
「元々、一月の契約期間でしたからね…。彼女は少々長く居過ぎました。…ここが潮時でしょう。」
「…」
確かにそうだった。
最初は、次々と舞い込んでくる縁談話を断るための、仮初の妃だった。
最終的には反対したが、始めは囮にするつもりもあった。
しかし―――…
彼女の人柄に触れるにつれ、それは虚飾だけではなくなった。
私自身も、彼女と居て楽しいと思えるようになった。
彼女の傍に居たいと思うようになった。
逃がしたくないとも。
それは今でも変わらない。
――自分はどうしたいのだろうか。
*************
「……完、済?」
「ええ、そうです。長い間、ご苦労様でした。」
夕鈴は黎翔と李順が同じ会話をした翌日、李順にいつもの四阿に呼び出されていた。
ここに呼び出される時は何か重要な事を聞かされる時なので、内心ドキドキであった。
そして、聞かされた話に、夕鈴はぽかーんとしてしまった。
驚きすぎて暫く意識を飛ばしていたのかもしれない。
李順に呼ばれるまで、話が続いていた事に気が付かなかった。
「…どの。……鈴殿?―――夕鈴殿?」
「――!あ、はいっ!?」
「…聞いてなかったようですね…」
「す、すみませんっ!!!」
「ふぅ…。――いいでしょう、もう一度申し上げます。」
「はいっ!」
びしっと夕鈴は居住まいを正した。
「この件はもう陛下にはお伝えしております。もうすぐで貴女の借金が終わる事を。そして夕鈴殿、貴女は借金完済後、準備が出来次第ここを出て貰う事になります。それで宜しいですね?」
「―――」
正直、頭の中がぐるぐるしていた。
完済?……は喜ばしいわね。
借金なんて庶民の敵!
無い方が良いに決まってる。
―――でもそれは……同時に陛下との別れを意味する。
いや勿論、李順さんとか浩大とか老師とか…他にも色々な人との別れも意味するんだけど。
紅珠とか柳方淵とか水月さんとかとも。
―――寂しい、な。
せっかく知り合えたのに…
―――いえ、元々、知り合うはずは無かったんだわ。
だって私は所詮一庶民の汀 夕鈴。
狼陛下のお妃様の夕鈴は、元々存在しないもの。
全てが元通りになるだけの話だ。
なのに――――何でこんなに胸が痛いの?
その理由は分かってる。
分かってる…――――
でも、もうこの気持ちにもケリをつけなきゃ。
あの人は、手の届かない人。遠い人。
好きになってはいけなかったのに…
だけど、もう終わり。
借金が終わったら、私はここを出ていく。
演技夫婦は、もうおしまいだ。
だから―――――
「はい…――――分かりました。」
夕鈴は、そう答えた。
風が舞う。
それは季節の変わりと共に、夕鈴と黎翔の関係の終わりも示唆していた―――
****************
夕鈴は借金完済後に向けて、下町に返る準備をしていた。
とは言っても、ここに来る時に持って来ていたのは、身に着けていた衣服と髪止めくらいなものだが。
あっさりと準備を終えた夕鈴は、借りている妃衣装や髪飾り、宝飾品などの状態をチェックする。
―――うん。特に綻びもなし。傷も…ついてない。
これなら、李順さんに返す時に、何か言われる事は無いだろう。
……いや。もしかしたら『この宝石…何か曇っている気がしませんか?』くらいは言われるかも。
そう思ったら、髪飾りや宝飾品のほんの微かな曇りが気になって来た。
いつも侍女の方が入念にお手入れをしてくれているが、それでももしかしたら李順さんのチェックには引っ掛かるかも。
――――――良し。今のうちに綺麗にしましょ。
夕鈴は、綺麗な布を持ちだして、借り物の曇り具合をチェックし、擦り始める。
「―――お妃様。陛下のお渡りでございます。」
「は、はいっ!!」
ちょっと動揺してしまったが、身に着いたお妃スマイルでやり過ごす。
そうしていると、陛下が部屋に入って来た。
「―――妃よ。今夜も君に会うのが待ち遠しかった。」
「お帰りなさいませ、陛下。」
仲良し夫婦演技で侍女に見せ付ける。
黎翔は夕鈴を抱き締め、夕鈴はそれに恥らいつつ応える。
すぐに黎翔が侍女に下がるよう指示する。
すると音もなく侍女は退出し、部屋は静寂に包まれた。
「―――夕鈴。あの机の上にあるのは、どうしたの?」
「あ…」
そう言って黎翔が指差したのは、机の上にある髪飾りや宝飾品の類。
いつもそれらの扱いに慎重な夕鈴が、広げて置いてあるのが気になったらしい。
「これは…今のうちにお手入れをしておこうと思いまして。借り物ですし…」
「―――そんなの、侍女に任せればいいんじゃない?」
「いえ、侍女の方はちゃんとしてくれていますよ。ただ―――李順さんに、それが通用するのか分からないので、念には念を…と思いまして。」
いちゃもんをつけられて、小言を言われるのは正直キツイ。
最期くらい、気持ちよく終わりたい。
「―――」
「…?陛下?」
「―――夕鈴は……本当に帰るの?」
「え…」
どうしたんだろう。
何で、陛下はこんな事を言い出すの?
夕鈴は、戸惑う瞳で黎翔を見上げる。
「…別に、臨時花嫁の後任は決まって無いんだし…このまま、君が居ても良いんじゃないかと僕は思うんだけど…」
「それは…」
それは夕鈴も思った。
だけど、李順さんは借金完済後はここを出るよう言っていた。
だから…もう終わり。
終わりなのだ。
例え…どんなにお傍に居たくとも。
夕鈴は気持ちを押し殺して、李順も言っていたような言葉を口にする。
「――――でも、元々私のバイトは1ヶ月の予定でしたよね。それを、私の借金で延ばし延ばしにしてしまいました。言わば私の都合で、雇って貰ってたんです。」
「それは…」
「だから、その借金が終わったら、自動的にバイトも終わりです。―――陛下。長い間、お世話になりました。」
「ゆ――」
「あともう少しですが、精一杯頑張りますので宜しくお願いします。」
「―――っ」
そう言って深くお辞儀をする。
それは、今までの国王とその妃の距離間では無く…王と臣下の距離。
黎翔は下げられた顔を持ち上げようと手を伸ばすものの、その手は宙で止まる。
そして、言葉もなくその手は下げられる。
―――もう、『その時』は近づいていた。
***************
夕鈴は後宮を辞する1週間ほど前から挨拶回りをしていた。
侍女さん達やお世話になった女官の方々、政務室の面々には『一身上の都合で、後宮を去ることになりました』と。
侍女さん達には泣かれてしまった。
女官さん達は、少し残念そう。
政務室の若い官吏の方たちは、深い理由は聞かずに『寂しくなります…』と言われた。
自分が去る事をこんなにも残念に思ってくれる人たちがいるというだけで、何だか申し訳ない気持ちになる。
老師には物凄く喚かれた。
『陛下がさっさと手を出さないからじゃー!いや、今でも遅くは無いっ!掃除娘っ。今から陛下を誘惑して来るのじゃっ!』
とかなんとか。私はいつもの調子で
『私はバイトで、もうすぐここを離れる身ですので。―――老師。もう会えないと思うので、お菓子を焼いてきました。良かったらどうぞ。』
と言って、その場を去った。
あんまり長居をすると、何かが込み上げてきそうだと思ったから。
浩大はその場に居らず、探したり陛下に聞いたりしたものの、結局姿を現さなかった。
「―――俺はしんみりするタイプじゃないんでね~…」
夜、隠密の声が闇に溶ける。
夕鈴が王宮を去る当日。
心配していた借り物の件は、特に注意もされず引き渡したので、その点では夕鈴はほっとした。
最後の最後まで注意されるなんて、さすがに嫌だ。
隠し通路の入口で、陛下と李順さんに見送られる。
「―――本当に、お世話になりました。」
「いえ―――こちらも、随分と助かりました。気をつけてお帰り下さい。」
「はい。李順さん、今まで有難うございました。」
李順に深くお辞儀をする。
お妃教育や宴の時など臨時花嫁をやるに当たって、夕鈴を妃らしくしてくれたのは偏に李順のお陰だ。
その感謝の気持ちも込めて、夕鈴はお礼を言う。
「…夕鈴は、これからどうするの?」
「陛下。―――恐らく、これまでと同じように、バイトをすると思います。」
「そう…―――」
そう言う陛下のお顔が、寂しそうに影を帯びる。
それには気付かなかったふりをし、夕鈴はお辞儀をする。
「改めて―――陛下。大変お世話になりました。…下町に戻っても、私は陛下の味方です。―――お元気で。」
「―――」
頭を上げた夕鈴は、満面とは行かないまでも笑顔を見せる。
最後に見せる顔は、笑顔。
それは、ずっと決めていたこと。
お別れは辛いけれど…―――貴方との思い出は、決して辛いものばかりではなかったから。
だから、夕鈴は笑う。
心の奥にある悲しみをひた隠しながら。
―――これで、夕鈴の『臨時花嫁生活』は終わった。
*************
―――――――――――――――――――――
とりあえずここまで。
そう!
何を隠そう、この話は夕鈴のバイト終了であります!
あら嫌だ(´・ω・`)
李順さんがいちゃもんつけてますわ(´・ω・`)
その辺の姑も真っ青の付け具合(笑)
…って、実際にいちゃもんつけたわけではないですが←
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