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雪の箱庭

「狼陛下の花嫁」二次小説を書いています。SNSで書いたものを掲載します。

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変化の予感 1

皆様今日は!
出来る限り日に三本は更新したい私です!

こちらの話はSNSで8000歩目を踏んで下さったM様のリクエスト。
中々気合いの入った作品となっております。

特に妙な表現はありませんので、ご安心してお読みくださいませ♪

――――――――――――――――――

【原作寄り】
【捏造】



夕鈴は足早に後宮の回廊を歩いていた。
侍女たちがおろおろしながら慌てて付いて行くも、それに気が回らないくらい夕鈴も焦っていた。
夕鈴がこうなったのは、老師のところから帰って来た直後である。
つまり、夕鈴が立ち入り禁止区域で掃除をした後のこと。

それは、少し時を遡る―――――――――


…*… …*… …*… …*… …*… …*…

―――――後宮 立ち入り禁止区域

夕鈴はいつものように掃除に勤しんでいた。
お妃教育や夫婦演技のストレス解消には、やはり主婦業で慣れた掃除が一番だ。
―――そう、陛下が来なければ。

『夕鈴。頑張ってるみたいだねぇ。』
『へ、陛下っ?どうしてこちらに?』
『夕鈴の様子を見に。…いけなかった?』

そう言う陛下の様子は見る間にしゅーんとなり、小犬が耳としっぽを垂れている幻覚が見えた。
この顔には弱い。
何でも言う事を聞いてしまう。
そんな事では駄目だと思うのだが、夕鈴はいつも許してしまう。

『いえ…いけないという訳ではありませんが…』
『本当っ?』

今度は耳としっぽがぱたぱたと元気に動く…幻覚が見える。
はぁ…と溜息を吐きながらも、夕鈴は掃除を再開させる。
その後ろ姿を見ながら、黎翔はにこにこしていた。
しかし次第に掃除ばかりで全然自分に構ってくれない夕鈴に少し拗ねたのか、ちょっかいを出してきた。
掃除中の夕鈴の後ろに回り、ハタキを持つ手に自分の手を重ねる。

『君は夫を放っておいて掃除にばかり感けるとは…いけない妃だな。』
『ちょ、陛下っ!?妃って…今は掃除婦ですっ!それに、掃除は仕事ですっ!離して下さい!』

夕鈴は陛下の手を振り払おうと手を動かすが、強く握られているわけでもないのに、絶妙な力加減で離すことが出来ない。
黎翔は調子に乗ったのか、反対の手を夕鈴の腰に回し、囁くように言う。

『君の仕事は私の妃だろう?』
『今は掃除婦で、掃除が私の仕事ですっ!はーなーしーてーっ!』

夕鈴がそう言い放つと、黎翔は腕の中の夕鈴の体をくるりと回転させ、夕鈴の背を壁に押し付ける。

『へ、陛下っ?何を…』
『いついかなる時も、君は私の妃だろう?』
『―――っ!!?』

先ほどよりも近い距離…耳元で、狼陛下の声音で囁かれる。
小犬陛下にも弱いけど、狼陛下の甘い声にも夕鈴は弱い。
耳が暑くなって腰が抜けて、足に力が入らなくなる。
がくんと膝から力が抜けるが、陛下が腰を支えていたので床に崩れ落ちる事はなかったが、状況は改善されていない。
ほとんど陛下に抱きこまれるように立っている。
黎翔はくすりと笑ってしゃがみこむ。

『ゆーりん、耳弱いよね。可愛い。』
『な…っ!』

からかわれたのだと理解した夕鈴は一瞬言葉を無くすがすぐに体勢を整え、きっ!と黎翔を睨みつける。

『からかわないで下さい!へ、陛下は慣れてるかもしれませんが、私はこういう事には慣れてないんです!』
『からかってなどいない。それに、慣れているとは心外だな。君にしか言ったことはないというのに。』
『はいはい、そーですかっ!』

それはタラシ男の常套句だと、下町に居る時に近所のおばさんに教わった。
「そういう男には気を付けるんだよっ」って。
狼陛下は演技だって私は知っているけど、それでも慣れないものは慣れない。
よって、このような言葉を信じられるわけがない。
夕鈴は力が戻ってきた足に力を入れて踏ん張り、両手を黎翔に突き出して腕の囲いから抜け出す。

『もうっ!私は仕事中なんですっ!陛下もご政務がおありでしょうっ!もうお戻り下さいっ!』
『君の仕事は私の妃…』
『はいはい、そーですねっ!でも今は掃除婦ですのでっ!お・は・や・く、お戻り下さい!』

こうなった夕鈴に甘い言葉は通用しない。
黎翔は心の中で「残念…」と呟きながら、表面上は小犬陛下を装い『そうだね。そろそろ政務に戻るよ。』と言い、その場を名残惜しそうに去って行く。



夕鈴は、プリプリ怒りながら掃除の続きを再開する。

『―――もう!何なのよあの人は!一体どこであんな演技を覚えてくるのっ!』

勿論、先ほどの鬱憤を晴らしながら。
ハタキに力を込めて、埃を親の敵の様に蹴散らす。
見る間に綺麗になっていくその部屋の様子を、新たに現れた二つの影が眺めていた。

『らぶらぶじゃの~』
『ねー』
『この様子じゃと、御子をこの手に抱く日も近いかのぅ…』
『それはどうだろうね~…』
『―――老師!浩大!煩い!』

まるで最新の噂を聞きつけた下町の女子のようにきゃいきゃいと騒ぐ老師と浩大に、夕鈴は睨みつけながら文句を言う。

『それに、らぶらぶじゃありませんから!あれは狼陛下の演技!――どうして掃除婦の時にしたのかは知らないけど…』

それが不可解なところである。
夕鈴は首を傾げる。
今は夕鈴は掃除婦で、周りには官吏や大臣は居なかった。
二人きりだったのにも関わらず、陛下は狼の演技をしてきた。
掃除の手は止めず、夕鈴は頭の中を疑問符でいっぱいにしていた。
しかし次に浩大が発した言葉に、思わず手を止める。

『あ~…陛下は意識して切り替えてないからね~。自然と出ちゃったんだろうな~』
『―――え?』
『あ』

浩大が発したその言葉に、夕鈴が聞き返して振り返る。
その場がしーん…となる。

―――意識して切り替えてない?
―――自然と出ちゃった?

狼演技が染みついているから自然と出ちゃった…という風には聞こえなかった。
それに、浩大は『やべ…』というように冷や汗を出している。
老師も少し蒼褪めながら、咎めるように浩大を見る。

意識を切り替えてない…ということは、自然と狼と小犬が変わっているという事?
でも、狼陛下は演技なんでしょ?
自然と出るという事は、狼演技が染みついていて…いや。
夕鈴は一つの可能性を考え付いた。

―――もしかして…
―――もしかしたら…

狼演技が、演技じゃなかったら?
狼も、自然と出てくるのだとしたら?
それは――――――…どういうこと?

夕鈴は混乱の極みに達した。
浩大が『お妃ちゃんっ、今のは言葉を間違えただけだからっ、だから気にすんなってっ』とか、老師が『そうじゃそうじゃ!気にするでない』とかなんとか言っていた様な気もしたが、今の夕鈴の耳には届かなかった。
そのまま、よろよろと掃除用具を片付け妃衣装に着替えたかと思うと、ダッシュでその場を去って行った。
その後ろを、慌てて侍女が追いかけた。
夕鈴の後ろ姿を浩大と老師は顔を蒼褪めながら見て、今後の事を思い、心の中で嘆いていた。

…*… …*… …*… …*… …*… …*…

後宮を出て、王宮へと入る。
本来妃は後宮から出るものではないが、国王陛下直々に許可されているので、夕鈴は自由に出入りが出来る。
夕鈴が目指す先は―――政務室。
ある人物に話を聞くためだ。
侍女たちを部屋の前に残し、夕鈴は政務室の中に入る。
周りの官吏たちの視線には目もくれず、真っ先に奥の部屋へと急いだ。
夕鈴は奥の部屋に半ば駆け込むように入った。

「李順さんっ!お聞きしたいことがあるのですがっ!」
「貴女は…お妃というものは、もっと落ち着きを持ちなさいっ。…聞きたい事?それはなんですか?」

李順はメガネをくいっ、と指で押し上げながら夕鈴に問う。
この部屋には幸いにも、陛下は居なかった。
どうやら今は出払っているらしい。
好都合と思い、夕鈴は早速話を切り出した。

「李順さんっ―――――――陛下は、陛下のあれは、演技なんですよね?!」
「―――は?」
「だからっ、陛下のあの「狼陛下」は、演技で、実際の陛下は小犬で、狼陛下は存在しないんですよねっ?そうですよね?!」
「―――…」

演技だと…あの狼陛下は嘘の存在だと言ってほしい。
でなければ…私が今まで見てきたもの…信じてきたものは何だったのか。
なのに目の前でこちらを見る李順さんは、こちらの困惑を余所に冷めた目つきをしている。
それは、何かを決意した目にも見える。

「―――最初の頃も言いましたが、狼陛下はイメージ戦略です。他国や臣下に舐められないための。」
「じゃあっ」
「―――ですが、あれは演技ではありません。狼の方も陛下の本質。…本当に今まで分からなかったのですか?」

仕事の上司にあっさり否定されて、夕鈴は頭の中が真っ白になった。
もう一度確認しなければ。

「…『狼陛下』は、演技だって…」
「私たちは一度も『演技』とは言ってません。」

夕鈴が再び同じ事を言うと、李順にぴしゃりと跳ね除けられる。

「確かに、陛下のあのような面…貴女の言葉を借りるなら、小犬、ですか?そういう面もあります。それを臣下や他国の重臣に知られると、陛下が舐められてしまう…そこで、他者の前では常に『冷酷非情の狼陛下』を前面に出していただけです。」
「―――ぁ…」
「ですが狼の面も、真実陛下の一面。あの方の顔です。小犬の面を臣下に見せてないだけで、どちらもあの方の性格です。貴女の言う様な、演技などしておりません。」
「―――――ぇ…?」

夕鈴はもう言葉が出ない。
―――狼陛下は、演技じゃ、ない、の?
じゃあ…じゃあ、今まで見てきた陛下は…?
あれも全て…演技ではないというの?
演技だと思っていたから…本当の自分をさらけ出すことのできない世界で、頑張っている人だと思ったから…
―――なのに…

「…………私は、騙されていたんですか?」

やっとの事で絞り出せた言葉は、蚊の鳴くような、細々とした声だった。

「―――私たちは、騙してなどいませんよ。……ただ、貴女の言葉を否定も、肯定もしなかっただけです。」
「―――なっ!」

夕鈴は、かっ!と頭に血が上るのを感じた。

「そんな…っ!そんな、言葉遊びみたいなものでっ…っ…!」
「ええ。そう思って頂いても結構です。ですが、貴女が今居る場所は、そういう所です。」
「―――っ!!!」

残酷なひと言が突き刺さる。
そう、王宮はそういう所だ。
様々な思惑が行き交う、窮屈な場所。
そんな窮屈な場所で、柔らかい性格の陛下が頑張っているんだと…その数少ない味方として、傍に居られたらと思ったのに…
―――それすらも、嘘、だったの…?
もう何を信じたらいいのか分からない。
頭の中がぐしゃぐしゃで、目の前の光景も歪んで見えた。
涙が滲んで、体が震えだす。
李順が口を開こうとしたその時

「李順、宰相からまた追加の書簡を渡された。…あれは人を何だと…」

黎翔が部屋に入って来た。



「―――夕鈴?来ていたのか。」

黎翔は驚いた。
先ほど立ち入り禁止区域で掃除をしていたから、政務室に居るとは思わなかった。
すぐには会えないと思っていただけに、間近に夕鈴の存在を感じる事が出来て、その喜びを体現するかのように黎翔は夕鈴に近づく。
夕鈴の肩に手を伸ばす。
しかし――――

パシッ

その手は払い除けられ

「――――触らないでっ!!!」

大音声が部屋中に響き渡った。



夕鈴は、体中の血が沸騰しているのではないかと言うくらい、怒りに燃えていた。
――騙されていた。
――自分の気持ちを裏切られた、踏み躙られた。
一生懸命頑張っていたのに。
慣れない場所で、慣れない演技で、慣れない生活で。
一生懸命陛下の味方になれているんだって…
陛下が部屋に入って来た。
目で見たわけではないが、声が聞こえた。
もう聞き慣れてしまった、少し低めの声。
私の名前を呼ぶ声は、少し嬉しそうにも聞こえる。
でも、もうそんな演技には騙されない。
肩に伸ばされたその人の手を、精一杯の力で払い除ける。
そして怒りを乗せ、力一杯声を張り上げる。

「――――触らないでっ!!!」

夕鈴は怒りに燃えた目で黎翔を睨みつける。
その目には涙が湛えられていて、今にも零れそうだった。
黎翔は訳が分からないと困惑し、おろおろと夕鈴に問う。

「ゆ、ゆーりんっ?どうしたの?」
「―――嘘つき」

その言葉に、黎翔はぴたりと動きを止める。
夕鈴の目から涙が一滴…いや、次々と零れ落ちる。

「嘘つき…嘘つきっ…嘘つきっ、うそつき、ウソツキっ!!!」

あらん限りの声を張り上げる。
もう、否定の言葉しか思いつかない。
何も知らない、無知の頃の私は、もういない。
ただ、目の前に居る人を咎める事しか出来なかった。

「信じてたのに…っ!周りが敵だらけの貴方の、味方で居られると思って傍に居たのに…私も所詮、貴方にとってその程度の人間だったんですねっ!」
「ゆうりんっ?!」
「近づかないでっ!」
「―――っ!」
「…触らないで、近づかないでっ、傍に来ないでっ!!!嘘つきっ…嘘つき!!!!!!もう…もう、顔も見たくないっ!」
「―――あっ、夕鈴、待てっ!」
「ついてこないでっ!ばかっっ!!!!」

近づいて来ようとする黎翔を一喝し、涙を拭いながら夕鈴は部屋から出て行った。
その妃の姿に、政務室の官吏たちからどよっ…と動揺の声が上がったが、夕鈴が気にせず通り過ぎ、政務室を後にした。
妃の涙に、侍女たちは先ほどよりさらにおろおろし始めたが、主が後宮へと帰って行く姿を見て、慌ててその後に付いて行った。
残された政務室、その奥の部屋は、まるで嵐が去った後の様な静けさだけが残っていた。


***********************

二人きりになった部屋で、今起こったことが飲み込めない黎翔は、直前まで夕鈴と話していた李順に問い質すことにした。

「―――――――どういうことだ、李順…」
「私も驚いてますよ。まさか彼女があそこまで取り乱すとは…いえ、彼女だからこそ、あそこまで取り乱すことを見越しておくべきだったのでしょうね…」
「そう言う事を聞いているのではない。」

陛下からこれまでにないほどの冷気が漂ってくる。
言葉を間違えれば、こちらが斬られそうなほど冷徹な雰囲気だ。
李順はごくりと喉を鳴らし、慎重に言葉を選んだ。

「―――夕鈴殿から、『狼陛下は本当に演技なのか』と質問されたのですよ。それで…」
「―――それで…?」

その一言で、陛下は大体の状況は飲み込めたようだ。
陛下から更なる冷気が叩きつけられる。
それでも李順は続けた。

「…それで、夕鈴殿に『狼陛下も、陛下の本質です。演技ではありません』…とお教えしたのです。」
「―――ッ!!」
「夕鈴殿は貴方の温和な性格の方を『小犬』と称して、そちらが本当の陛下と思いこんでいたようですが、それを訂正しただけです。」
「何故――ッ!」

黎翔は李順の襟元を掴んで壁に叩きつけた。
怒りが収まらない。
このまま李順を痛めつけてしまいそうなほど黎翔は怒っていた。
何故勝手な事をしたのかと。
私の知らぬ間に、夕鈴にそれを言うなど…と。
しかし次の李順の言葉で、黎翔は冷や水を浴びせられた気持ちになった。

「それが彼女のためだと思ったからですよ。―――陛下、いつまで彼女を欺き続けるおつもりですか?」
「―――ッ…」

黎翔は李順の襟元を握っていた手を離し、だらんと力を抜く。
そしてよろよろと自分の机に向かい、何とか椅子に体を預けると、机に肘を付け組んだ手に額を預ける。

―――これは、罰なのだろうか
夕鈴を欺き続けた、罰。
最初の頃からこれまで、狼陛下は演技だという彼女の言葉を否定せず、そう思い続けさせていたことへの。

これまでにないほど意気消沈した主の姿を見ながら李順は

――――これからが正念場ですよ、陛下

そう、考えていた。


***************

夕鈴は後宮の自室へと駆け込んだ。
妃がそんなはしたない…とか、そんなことはもうどうでもいい。
もう、自分には関係ないのだから。
自室に置いてある、自分の下町での衣服を取り出すと、慌てふためく侍女さん達に振り返り、丁寧にお辞儀をしながらこう言った。

「今までお世話になりました。私はこれで後宮を下がらせて頂きます。皆さんからお受けした数々の親切は、一生忘れません。」
「―――!そんな、お妃様っ!?」
「どうしてそんな突然にっ!」
「私どもに、何か不備でもございましたかっ?」
「どうか、お考え直しをっ!」

慌てて妃を止めようとする侍女たち。
政務室からお戻りになったお妃様が涙目でいた様子から、何か重大な事があったのだろうとは予測できたが、どのような言葉を掛ければ良いのか見つからない。

「―――いえ、皆さんはとても良くしてくれましたわ。…これは私の我儘です。勝手ですが、私は本日を以ってここから離れます。突然の非礼、ご容赦くださいね。」

そう言ってにっこりと笑う夕鈴は痛々しい。
涙を湛える瞳が、それを余計に助長させる。
余りに労しい妃の様子に、侍女たちはそれ以上何も言えず、ただ妃が立ち入り禁止区域へと去って行く事を見送るしか出来なかった。



「―――あ、お妃ちゃんっ!さっきは変な事言ってごめんっ!謝るから、許してくれよ~」
「そうじゃぞ、掃除娘。このように小僧も反省しておる。じゃから…」
「申し訳ないですが、浩大、老師。私は今日を限りに下町に帰ります。」

その余りの冷たい声に、浩大と老師は一瞬何を言われたのか分からなかった。
そして優秀な隠密である浩大は早く回復し、夕鈴に聞き返す。

「―――えっ?!お妃ちゃん、それマジっ!!?」
「ええ。本当よ。まだ侍女さん達にしか言ってないけど。」
「陛下には何も言ってないのっ?!」
「―――」

その瞬間、ぴしりと空気が凍りついた…気がした。
いつもなら陛下にしか感じないそれを夕鈴から感じたことで、浩大と老師は固まった。

「―――何で陛下に言わなくちゃいけないの?あの人が元凶なのに。」
「で、でも………あ!借金はどうすんのさっ!」
「…忘れていたわ。」
「でしょっ!?だから…」
「李順さんに伝えてくれる?『借金は何が何でも、一生かけてもお返ししますから、もう私に関わらないで下さい。』と。」

本気だ。
本気で、もうここには戻らないつもりでいる。
夕鈴の本気に、今度こそ浩大は言葉を無くした。
それに追い打ちを掛けるように、夕鈴からの言葉は続く。

「――――二人とも、陛下のあれは演技じゃないと知っていたのよね?」
「そ…それは…」
「それを言われると…何も言い返せん…。」
「では、同罪よ。…私は着替えます。あっち向いてて。」

その言葉に操られるように、浩大と老師はくるりと後ろを向く。
―――そうだ、この隙に…
と、浩大が陛下と李順に知らせようと動き出した時。

「―――そうだ、浩大。陛下には知らせないでね。李順さんには、私が出て行った後に伝えて頂戴。―――良いわよね?」
「…………………………………………………ハイ…………」

いつにない夕鈴の周到さに、降参した浩大。
寒気を覚えつつ、見守るしかない老師。
夕鈴から「もういいわよ」と言われ振り返ると、すでに準備の整った夕鈴の姿が。

「じゃあ、私は下町に帰るわ。―――今までお世話になりました。」

その言葉は、棒読み。
もう夕鈴からの言葉には、怒りしか感じられない。
こくこくと頷きながら、二人は夕鈴を見送るしか出来なかった。
少しの未練も感じさせず、夕鈴は後宮を去って行った―――――


*******************

しーん…と静まり返った政務室の奥の部屋。
黎翔と李順はあれから言葉を交わさず、何もせずただ時間だけが過ぎていた。
そこに、その状況を変える風が吹いた。

「――――李順さんっ!大変だよっ!」
「――――どうしたのですか、浩大。…まあ、大体想像はつきますが。」
「そーなんだよっ!お妃ちゃんが帰っちゃったんだよっ!」
「―――――――――――何だと?」
「―――…はぁ…やはりですか……」

地を這う様な低い声が聞こえた。
同時に、李順からの溜息も。

「――――――どういうことだ、浩大。詳しく話せ。」

浩大は冷や汗を掻きつつ、でも、夕鈴に言われた言葉を守るべきかどうかと考えた。

「で…でも…お妃ちゃんには『陛下には言うな』って…」
「ほう……?―――――お前の主は誰だ?浩大……。」
「…………へーかです……。」
「だろう。…話せ。」

夕鈴からの冷たい声音に屈した浩大だったが、本家本元の『冷酷非情の狼陛下』の命令には逆らえない。

「えーっと…お妃ちゃんから、李順さんに伝言。『借金は何が何でも、一生かけてもお返ししますから、もう私に関わらないで下さい。』だそうです。」
「…そうですか。」
「あれ?怒んないの?」
「――――今まで騙し続けていたのです、帳消しにしても良いくらいでしょう。そもそも最初の借金自体、別にさせなくても良かったのですから。」
「へ~…そうだったんだ~…」
「まあ、帳消しには致しませんが。」
「…あれ?」
「当然でしょう。彼女が割った壺――――あれ、幾らすると思っているんですか?」
「いや~俺には分かんねっす……っ!」

李順と浩大が話していると、脇から冷徹な空気が漂ってきた。
それに、浩大は身震いする。

「――――私には何もないのか?」

そこにはまさしく『戦場の鬼神』という言葉が相応しいほどの人物が、冷たく聞いて来た。

「―――陛下には何も知らせるな、とお妃ちゃんには言われてるよ。もう知らせちゃったけど。…下町に帰る事、侍女さんには言っている、と言ってた。俺と老師にも一応挨拶していった…―――棒読みで、目が据わっていたけど。李順さんには、さっきの伝言を、お妃ちゃんが出て行ってから伝えてくれとだけ。」
「―――じゃあ、もう夕鈴は…」
「うん……もう後宮から出て行ったよ。」
「――――」

浩大の言葉に、再び意気消沈する黎翔。
李順は「…はぁ…」と心の中で溜息を吐きながら、今日の政務はもう仕事にならない事を悟った。
浩大は「もしかして…自分のうっかり発言がこんな事態に…?」と戦々恐々しながら、そのことは墓場まで持って行こうと決心したのであった。


**********************

――――――――――――――――――

ちょいちょい夕鈴が辛いです(>_<)
私も書いてて辛かった…

でも仕方が無い!
それがリク内容だったので!←まだ言ってる(笑)

うん、浩大。
それは本当に墓場まで持って行かないといけないレベルwww
そんなこと陛下にバレた日には…確実に○○○○…


2へ続く

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*Comment

NoTitle 

やだ。夕鈴がこんな辛いリクをしたのは誰でしょうかね~←
陛下ー。
そんなとこでウジウジしてないでさっさと行きなさーい。
は!どこぞから
「・・・・貴様のせいで・・・・」
と、恐ろしい冷気が・・・( ̄◇ ̄;)( ̄◇ ̄;)汗
  • posted by ママ 
  • URL 
  • 2013.12/07 16:32分 
  • [Edit]

ママ様へ 

ほんっっと、誰でしょうかねぇ(・・?<チラッ

おや?
まだ陛下から追われておいでで(^u^)?
私は素晴らしい隠遁術を会得してから、快適な執筆ライフを送りましてよ♪←
  • posted by さき 
  • URL 
  • 2013.12/08 11:14分 
  • [Edit]

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Author:さき
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「狼陛下の花嫁」の二次小説を書いています。
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